船舶は、生活に必要な物品を運送したり人を乗せて海を航海しています。しかし海は水域ごとに特徴があり、一歩間違うと大事故につながります。船舶の安全性や効率性を支える「水先人」という資格があり、海の安全が守られています。
この記事では水先人の国家資格について、養成校の履修内容や試験、仕事の将来性などについて説明します。
水先人とは、どんな資格?
水先人とは、水路を案内し船舶が安全に入港できるようにしたり、効率的に船舶を誘導する仕事です。船舶の移動では衝突などの事故のおそれがあります。事故が起きると労働者の身体・生命に危険が迫るほか、海洋環境汚染のリスクも考えられます。そのため、水先人は人の命や環境、船舶を使った流通の安全と安心を確保しています。
船舶には船長が配置されますが、各水域を熟知したスペシャリストである水先人が補佐をします。水先区は日本全国に35箇所あり、水先人の免許は水先区毎に交付されているのが特徴です。免許を交付された水先区のみで水先案内業務を行うことができ、1級から3級までの等級別の免許があります。
等級ごとに扱える船舶と水先区は下記の通りです。
- 1級水先人
- 船舶の大きさ、水先区に制限なし
- 2級水先人
- 上限6万総tまでの船舶、但し危険物積載船は上限2万tまで。水先区に制限あり
- 3級水先人
- 上限3万総tまでの船舶、但し危険物積載船は不可。水先区に制限あり
- 3級水先人の履修科目
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- 座学(航海、運用、法規、英語)
- 操船シミュレータ
- 商船等乗船訓練
- タグボート乗船訓練
- 水先現場訓練
- 養成期間:2年6ヶ月
- 2級水先人の履修科目
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- 座学(航海、運用、法規、英語)
- 操船シミュレータ
- タグボート乗船訓練
- 水先現場訓練
- 養成期間:1年6ヶ月
- 1級水先人の履修科目
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- 座学(航海、運用、法規、英語)
- 操船シミュレータ
- 水先現場訓練
- 養成期間:9ヶ月
- 登録水先人養成施設
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- 国立大学法人 神戸大学
- 独立行政法人 海技教育機構 海技大学校
- 国立大学法人 東京海洋大学
- 身体検査
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- 視力(矯正視力も可)
- 弁識力
- 聴力
- 疾病及び身体機能検査
- 筆記試験
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- 海上事故予防法規
- 海上交通安全法
- 操船知識
- 気象知識
- 港湾知識
- 口述試験
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- 気象、海象知識
- 水深、距離、障害物、航路標識等の知識
- 操船知識
- 国際通信信号知識 (国際信号旗など)
- 条例、規則
- 英会話
- 一次試験範囲の応用問題
- 水先人が解決できること
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- 船舶の事故を未然に防ぎ、人命を守る
- 船舶の事故による海の汚染を防ぐ
- 海運の安全性や効率性の向上を支える
- 危険な海域を熟知し、運航のリスクを減らす
- 3級(無資格の場合)
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- 3級海技士(航海)以上を取得
- 総トン数1000t以上の船舶(平水区域を除く)で、1年以上船長又は航海士として乗船した経験もしくは1年以上練習船による実習を受けた経験
- 登録水先人養成施設にて3級水先人養成課程(2年6カ月)修了
- 2級(水先人3級取得後)
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- 3級水先人として2年以上の実務経験
- 登録水先人養成施設にて2級水先人養成課程(6カ月)修了
- 2級(無資格の場合)
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- 3級海技士(航海)以上を取得
- 総トン数3000t以上の船舶(平水区域を除く)で、2年以上船長又は一等航海士として乗船した経験
- 登録水先人養成施設にて2級水先人養成課程(1年6カ月)修了
- 1級(水先人2級取得後)
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- 2級水先人として2年以上の実務経験
- 登録水先人養成施設にて1級水先人養成課程(3カ月)修了
- 1級(無資格の場合)
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- 3級海技士(航海)以上を取得
- 総トン数3000t以上の船舶(平水区域を除く)で、2年以上船長として乗船した経験
- 登録水先人養成施設にて1級水先人養成課程(9カ月)修了
- 水先人の資格取得がおすすめな人
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- シニア世代で経験や知識を活かしたい人
- 高度な専門知識を習得し、収入アップを目指したい人
- 冷静で注意深い判断力がある人
- 体力に自信がある人
- 英会話能力が高い、またはこれから身につけられる人
- 海や船が好きで、仕事としても携わりたい人
- 人の命や海洋環境を守りたい人
学ぶ知識・技術
水先人になるには国家資格の取得が必要です。養成施設で課程の修了、水先人試験の合格、乗船経験が資格取得の条件として定められています。
海上の環境は、風、潮流、水深などの自然条件が水域ごとに異なります。船舶が安全かつ効率的に航海をするには、水域の特徴を熟知した水先人の存在が必要です。また水域特有の通航ルールの知識や英語力も求められます。そのため、水先人には幅広い知識が求められるのです。
水先人を養成する制度は水先法で定められており、養成を行う学校を「登録水先人養成施設」といいます。水先人の免許取得には、登録水先人養成施設で「水先人養成課程」の履修科目を修了する必要があります。
水先人養成課程の履修科目
登録水先人養成施設としては、以下の機関が登録されています。各課程の募集等については、一般財団法人 海技振興センターが総合案内を行っています。
登録水先人養成施設の課程を修了後は、水先人試験の合格を目指します。試験内容は下記の内容となります。
一次試験
二次試験
水先人で目指せる職業、就職先は?
水先人の資格を取得すると、個人事業主になります。そのため、収入は水先業務を行わなければ得られません。
国土交通省へ水先料金の認可申請及び届出などの手続きをすることで、事業を始められます。
ただし、水先人の免許は水先区毎に分かれていることを忘れないようにしましょう。全国には35箇所の水先区がありますが、取得した等級によって担当できる水先区が異なります。事業を始める際には、水先区を確認するよう注意してください。
水先人になるとどんな悩みが解決できる?
水先人になると、下記のような悩みの解決に貢献できます。
水先人の資格を取れる人はどんな人?(取得条件・受験資格)
水先人試験を受験するには、次のような資格や経験、養成課程の修了が求められます。
若手の水先人の門戸が広くなっている
従来の制度では、水先免許取得には、総トン数3,000t以上の船舶で3年以上船長を務めた経験が必要と定められており、水先人になるには長い年月がかかりました。しかし近年は、若い年代の水先人が活躍ができるようになっています。
平成19年4月に水先人の免許制度が新しくなり、船長経験がない人でも資格取得を目指すことができるようになりました。水先人3級であれば20代から仕事に従事できるようになったのは大きな変化です。
1級、2級を取得するには、さらに経験を積む必要がありますが、3級からステップアップを目指すのもキャリアプランのひとつでしょう。
取得にかかる費用
養成施設に入学するための入学検定料、入学金、授業料などを合わせると100万円以上の費用が見込まれます。水先人は資格取得までの費用が比較的高くはありますが、経済的支援も整えられています。
水先人養成校在学生への経済的支援
水先人養成のための教育は長期間に及ぶため、養成課程の履修者に対して経済的支援体制が整っており、一般財団法人 海技振興センターが支援しています。
水先人養成制度の支援内容は、水先修業生に対する月々の養成手当、教科書等の教材、海技大学校の外部で実習等を行う場合の旅費等の支給、在学生に対する傷害保険契約などです。
水先人はどんな人におすすめの資格?
水先人は、50代や60代で経験と知識を活かして活躍している人も多い仕事です。新しい資格制度となってからは、若手の水先人も誕生しています。
高度な専門知識を活かして、長く安定した仕事に就きたい人におすすめの国家資格といえるでしょう。
なお、水先人の免許取得後は更新の必要があります。免許の有効期限は原則5年で、更新講習に参加することが求められます。
どこが管理している資格なの?(問い合わせ先・管理団体)
水先人の資格を管理しているのは、国土交通省海事局と一般財団法人 海技振興センターです。養成校の募集要項などについては、登録水先人養成施設の各HPから確認しましょう。
まとめ:若手からシニアまで活躍する水先人でキャリアプランを描こう
水先人は海の安全を守る仕事であり、高度な専門知識を持った水先区のスペシャリストです。資格取得までは時間と費用がかかりますが、その分長期的に安定した収入が期待できます。海が好きな人や航海士の資格を取得している人などは是非検討してみてくださいね。
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