工場や建設現場、化学物質の研究所など特定の職場では、騒音や有害な化学物質、粉じんによって働く人に健康被害が出るおそれがあります。こうした労働災害を未然に防ぐために活躍するのが、「作業環境測定士」です。仕事内容や資格の取得方法などを詳しく解説していきます。
作業環境測定士とは、どんな資格?
作業環境測定士とは、建設現場や工場、医療・インフラ施設といった職場で有害物質・有害因子の測定・分析を行う国家資格です。こうした環境改善を図ることで、労働者の健康を守ることを目指します。労働安全衛生法が定める「特定業務(有害業務)を行う現場」で活躍する専門職で、具体的には以下のような場所で作業環境測定を実施します。
- 高温・低温の物質を扱う(もしくは極端な高温・低温下で作業を行う)現場
- 例えば、加熱した金属の加工を行う現場では、火傷などの怪我をするリスクが高いといえます。このような高温の物質、またはドライアイスや液体窒素などの低温の物質を扱う作業や、高温・低温下で作業を行う現場は、作業環境測定士の活躍の場の一つです。
- 異常な気圧下で作業を行う現場
- 海中での潜水業務、海抜3000メートル以上の高山業務、高圧・低圧の作業室やシャフト内部での業務などでは、気圧の変化が健康被害をもたらす恐れがあります。このような異常な気圧下で作業を行う現場も、作業環境測定士の活躍の場です。
- 有害物質を取り扱う現場
- ヒ素やクロム、水銀などの有害物質を取り扱う化学工場、研究所、原子力発電所、放射線・X線を扱う医療関連施設が該当します。
- 極端に大きな騒音が発生する現場
- ボイラー工場や建設・土木工事の現場などは騒音が付き物ですが、音が作業者の聴覚に障害をもたらすことがあります。このような現場にて騒音の数値を測定し、環境の改善を図ることも作業環境測定士の仕事の一つです。
- 大量の粉じんが飛散する現場
- 綿や糸・木炭などの植物性物質、獣毛・骨粉などの動物性物質、土石・金属といった鉱物性物質を扱う工場、坑内の作業現場や建築・土木工事の現場などが該当します。
では、上記のような現場で作業環境測定士はどんな仕事をするのでしょうか。具体的な仕事内容を紹介します。
- 有害物質や有害因子の測定、サンプリング調査
- 作業現場へ行き、労働者の健康を損なう恐れのある有害物質・有害因子を、作業環境測定法に基づいて測定します。水銀・ヒ素・クロムなどの有害物質は、健康被害が表れるレベルの量が流失してもすぐ気づきにくいというリスクがあるため、サンプリング調査を通して有害物質の流失を未然に防ぎます。
- 作業環境の分析、環境改善のアドバイス
- 測定値やサンプリング調査の結果を分析し、問題があると判明した場合、事業者に対して職場環境の改善を図るためのアドバイスを行います。その際には具体的な改善方法とともに、環境整備に向けた管理計画なども提案します。
- 担当した現場の定期的な訪問
- 作業環境測定士の仕事は、一度の調査・提案だけで終わるわけではありません。担当した現場を定期的に訪問し、再度の測定や分析、改善策がしっかり実施されているかの確認など、長期的に監視し、事業者とともに健全な職場環境を整備していくことも仕事の一環です。
作業環境測定士の国家資格は2種類に分けられる
作業環境測定士の国家資格は「第一種」「第二種」の2種類があり、業務範囲の広い「第一種」が上位資格になります。それぞれの違いは、下記の通りです。
- 第一種作業環境測定士
- 作業環境測定におけるデザイン(測定計画の立案)、サンプリング(試料の採取と分析の下準備)、簡易測定器による分析業務など、作業環境測定士の資格所有者に許可された全ての業務を行うことができます。また、第一種資格は「放射性物質」「鉱物性粉じん」「特定化学物質」「金属類」「有機溶剤」の5区分があり、専門分野に応じて取得する区分を選択します(5区分全てを取得することも可能です)。
- 第二種作業環境測定士
- デザインやサンプリング、簡易測定器による簡単な分析業務のみを行うことができます。多くの人は、この第二種の資格取得後に第一種の取得を目指します。
学ぶ知識・技術
作業環境測定士の国家資格を取得するには、まず国家試験に合格する必要があります。この試験で問われる知識は、「第一種」「第二種」ごとで下記のように異なります。
第一種作業環境測定士試験
- 共通科目
-
- 労働衛生一般
- 労働衛生関係法令
- 作業環境について行うデザイン・サンプリング
- 作業環境について行う分析に関する概論
- 選択科目(下記の5科目から選択して受験。全科目や複数科目を選択し、同時に受験することも可能)
-
- 有機溶剤
- 鉱物性粉じん
- 特定化学物質
- 金属類
- 放射性物質
第二種作業環境測定士試験
- 共通科目
-
- 労働衛生一般
- 労働衛生関係法令
- 作業環境について行うデザイン・サンプリング
- 作業環境について行う分析に関する概論
作業環境測定士で目指せる職業、就職先は?
作業環境測定士の資格があると、下記のような現場での就職が見込めます。
- 労働安全衛生コンサルタント会社
- 環境計量会社
- 作業環境改善指導会社 など
作業環境測定士になるとどんな悩みが解決できる?
作業環境測定士になると、下記のような悩み・問題の解決に貢献できます。
- 作業環境測定士が解決できること
-
- 粉じん、化学物質、電磁波、放射線、騒音などの有害因子から労働者の健康を守る
作業環境測定士の資格を取れる人はどんな人?(取得条件・受験資格)
作業環境測定士の国家資格を取得するには、まず国家試験に合格する必要があります。そして合格後は登録講習を受講し、厚生労働大臣の指定を受けた「公益財団法人 安全衛生技術試験協会」へ申請・登録することで、有資格者として認定されます。
国家試験を受験できるのは、下記の条件を満たした人です。
作業環境測定士国家試験の受験資格(第一種・第二種共通)
- 理系の大学または高等専門学校の卒業者で、労働衛生の実務経験が1年以上ある者
- 理系以外の大学または高等専門学校の卒業者で、労働衛生の実務経験が3年以上ある者
- 技術士試験の第2次試験に合格している者
- 労働衛生の実務に8年以上従事した経験がある者
- 産業安全専門官、労働衛生専門官、労働基準監督官またはその職務にあった者 など
上記のほかにも細かく規定されているので、詳細は「公益財団法人 安全衛生技術試験協会」の公式HPからご確認ください。
取得にかかる費用
第一種・第二種作業環境測定士の国家資格を取得するのにかかる費用は次の通りです。
- 作業環境測定士国家試験(第一種)の受験料
- 10,600~27,100円 (選択する科目数によって異なる)
- 作業環境測定士国家試験(第二種)の受験料
- 11,800円
- 作業環境測定士の登録手数料(第一種・第二種共通)
- 20,000円
作業環境測定士はどんな人におすすめの資格?
作業環境測定士は、次のような人に取得がおすすめの資格です。
- 作業環境測定士の資格取得がおすすめな人
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- 様々な視点からデータを集める情報収集力と、データに基づく分析力がある人
- 有害物質に関する知識があり、問題意識や関心がある人
- 依頼主に改善方法を伝える提案力のある人
- 衛生管理者、労働衛生コンサルタント、労働安全コンサルタントなどの類似資格を取得している人(できる業務の幅が広がり、キャリア形成しやすい)
どこが管理している資格なの?(問い合わせ先・管理団体)
作業環境測定士の資格を管理しているのは、「公益財団法人 安全衛生技術試験協会」で、試験は全国7ヵ所(北海道、宮城県、千葉県、愛知県、兵庫県、広島県、福岡県)の安全衛生技術センターで行われます。その年の試験日程や会場、合格後の手続きなどについては、下記のHPからご確認ください。
まとめ:作業環境測定士は、社会的ニーズが高く将来性も安定した専門職
建設業や化学工場、医療施設などがある限り、作業環境測定士は必要とされ続けるニーズの高い国家資格です。類似資格のダブルライセンスがあれば転職時に給与UPも狙えるので、安定性や将来性を見据えたキャリア形成をしたい方はぜひ資格取得を。
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